4.春興は利まぜ寿古路く 江戸時代(文久年間の頃) |
制作 二代目広重/ サイズ(cm) 縦74×横74 二代目広重の手による著名な作品。「日本絵双六集成」(高橋順二編著)には、以下のように紹介されている。 ------これも広重のアイデアマンとしての才能を見せた双六である。 正月の座敷に広げられた貼り交ぜ屏風がそのまま双六となっている。画面には人物は一人もいないが、火桶があり、文机がある。鶯のささやきぐらい聞こえてきそうな雰囲気である。 文函の中には、年始にきた客が置いていった配り物がある。人はいなくても十分に正月らしい明るくはなやいだ空気が、静かに部屋の中に漂っている。文机の上に回礼者の名前でも記すためか帳面が開かれたままおいてあって、文字を読むとそれが振り出しになっていて、飛ぶ先が指定してある。広重らしい気の利いた道具立てだ。 さて、貼り交ぜた扇面は、若水、礼者、なづな、鳥追い、とそ、梅、門松、追羽根、福引、福寿草、猿回し、万才など正月の行事や景物が描かれて、それぞれに俳句が添えてある。猿引きでは、「猿引きや掃除せぬ日の鞭ほこり」。昔が、正月元旦は掃出すことを忌み嫌って座敷も掃除しない習慣があった。梅には「掃き寄せる雪に香のありこぼれ梅」、福引には「福引や子らも子らも尋ねてむく恵方」。昔の福引は紙のこより端に当たる品物の名が書いてあって、子供がそれを引いて、こよりをむく時、その年の恵方を向いて、いいものが当たりますようにとこよりの端を広げるのでこの句ができた。 上がりの初日に丹頂鶴の舞う扇面には「人はみなうちとけ顔や初日の出」とある。田舎の小さな町にまで水道が行きわたり、若水を汲む習慣も万才や猿回しの姿も見かけなくなった当今の正月では、この双六の風雅さは十分理解できないであろう。 広重は大変楽な気分でこの絵を描いたように思えるが、屏風の表具や火桶の塗りの上品さや、屏風にちらした金箔など細い心遣いが伺える。 ・・・華やかで気品のある作品。江戸浮世絵のプロの技が光る。 |